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「手術室へようこそ」

【手術室看護領域】    国家公務員共済組合連合会 横浜南共済病院  秋場研さん
手術室看護 手術室―そこはまるで病院の大奥のようで、同じ看護師の中でも手術室の中での仕事はあまり知られていません。
そんな手術室での看護の仕事に日の目を当てるのと同時に、手術室ならではの看護の魅力を伝えていきたいと思います。 特に配属されたばかりで戸惑っているオペナース1年生に役立つ情報をちりばめつつ、手術室看護の本質に迫れたらと思います。
Vol.1  2009年5月 「手術室看護師の役割その1 器械出し業務」
 皆さん、はじめまして。手術室看護をテーマにエッセイを担当させていただく秋場 研といいます。
神奈川県にある横浜南共済病院の手術室で、7部屋、看護師29名で年間約5,500件のオペをこなしています。

 さて、急性期病院、特に外科系の病棟にお勤めの方でしたら、「オペ出し」「オペ迎え」ということでなにかと馴染みのある手術室ですが、 その内部の仕事の実態はというと、意外とピンとこないのではないでしょうか? 学生の時に一度見学に入ったきりという人も少なくないと思います。 病院というある意味特殊な施設・建物の中でも、いちばん奥にあって、 医療職員であってもおいそれとは入ることができない特殊な場所。 手術室のことを指して、ときどき「大奥」などといわれる場合があります。
 そんな大奥、手術室で繰りひろげられている日常を、これから連載でご紹介していきます。 遠い存在だったかもしれない手術室が身近(?)に感じられて、 そこで展開されている看護の本質・特殊性が少しでもイメージしていただけたらと思います。

【手術室看護師の役割分担】
手術室看護師の仕事というと、どんなイメージがありますか?
「『メス!』って言われたらメスを渡す役でしょ?」
「本当に先生の汗を拭いたりしてるの?」
どちらも間違いじゃありません。
 メスを渡すのもドクターの汗を拭くのも手術室看護師の仕事です。(汗拭きはそう頻繁にはありませんが、、、)ただしこのふたつの仕事、よく考えてみると一人の看護師が同時にはできないという点、お気づきでしょうか?

 メスをはじめとした手術器具(この業界では器械と言います)を医師に手渡しするナースは、滅菌手袋をして、滅菌ガウンを着ています。このスタイルは執刀する医師とまったく同じです。
つまり病院用語でいう「清潔」な状態。患者さんの体の中に触れる滅菌器具を扱うのですから、当然ですよね。片や「汗!」と叫ぶ外科医の話ですが、手術中の外科医が自分で汗を拭かないのはなぜでしょう?

 滅菌手袋をした手で自分の額に手をもっていってしまったら、清潔が破綻!

 自分で自分の汗がふけない、だから術野(手術創)に汗がポタッと垂れてしまう前にナースに頼むわけです。(滅菌ガウンを着て、無影灯の熱放射を浴びながらの手術、けっこう暑いんですよ)
 このとき、汗を拭くのは(病院用語でいう)「不潔」なナースの役割。器械出しをする清潔なナースは当然汗拭きはできません。つまり、手術を円滑に行うためには役割が違う二人の看護師が必要なのです。清潔なナースと不潔なナース。別の言い方をすると、器械出しナースと外回りナース、古い言い方では直接介助と間接介助。

 ナースはひとつの手術に対して、原則的にこの二つの役割を分担してペアになって行動するという点をまず基本として覚えておいてください。

【手術室看護師の役割分担】
器械出し看護師の仕事はテレビドラマなどでもおなじみで、なんとなくイメージがしやすいと思います。医師に指示された手術器具を手渡ししていって、手術が滞りなく流れるように医師をサポートするのが主な仕事です。
 一見簡単そうではありますが、手術で使う道具(器械)は、けっこう煩雑です。もっとも基本的な外科の開腹手術でも数十種類の道具を使い分けます。ましてや手術室では、消化器外科、心臓血管外科、耳鼻科、婦人科、皮膚科、眼科、泌尿器科、歯科口腔外科、脳神経外科、などなど外科系のすべての科を担当します。
 診療科が違えば使う器械もぜんぜん違ってきますし、同じ道具でも科によって呼び名が違うなんてこともしばしば。さらに同じ科であっても、術式が違えば使う器械の種類も変わりますし、とにかく覚えることが盛りだくさんです。
 それに加えて、器械出し業務のプロであるためには、手術の進行を把握し、次に何を使うかを先読みして、医師に言われるまでもなく必要なタイミングで適切な器具を出せるようになる必要があります。さらには突発的なトラブルをも想定して、すばやく対応できるように予備の物品を整えておくことも重要です。
たとえば、よく使う道具として「ハサミ!」と叫ばれることがあります。開腹手術で使うハサミは、私の施設では、5種類が器械セットの中に入っています。

 クーパー、長クーパー、直剪、メッツェン、スーパーメッツェン

 医師が「クーパー!」とか具体的に言ってくれればいいのですが、そうでない場合、私たちは術野(開腹しているおなかの中)を覗き込んで、何をしようとしているのか判断してハサミを選ばなくてはいけません。
 組織を切りたいのか、糸を切りたいのか、ハサミの長さはどっちを選んだらいいか、etc.

 このように器械出し業務は、言われたものを渡せればいい、というそんな単純なものではないんですね。
【器械出し看護師の存在意義】
そもそも器械出し看護師って何のためにいるのでしょう?
 「メスとか、ペアンとか、自分が使いたい道具は医者が自分で取っていけばいいじゃん」
 手術室配属になった当初、素朴に感じた疑問でした。

 皆さんはどう思いますか?
 確かに簡単な手術であれば、器械出し看護師をつけずに医師たちだけで手術を行う場合もあります。しかし全身麻酔で行うようなある程度の規模の手術であれば器械出しナースは必須です。
 たとえば、ありがちな場面として、手術操作中に小さな動脈を切って、ピューっと活動性の出血がおきた場合。このとき、医師は出血点をピンポイントでつまむためにペアンやケリー、血管鑷子などを必要とします。
 こんなとき、医師が自分で器械台から道具を選んでいこうとしたら、肝心の出血点から目が離れてしまい、術野はたちまち血にまみれてどこが出血点だかわからなくなってしまいます。

「外科医は術野から目を離してはいけない」

 これが基本原則。だからこそ、言葉ひとつで望んだ器械をすぐ使える状態で手の中に収めてくれる存在(器械出しナース)が必要なわけです。なにも医者が横着して楽するために私たちがいるわけではありません。すべては安全に手術を遂行するための工夫なのです。

今回は手術室看護師の役割のうち、器械出しナースについて、大まかに説明してみました。
 さて次回は外回りナース(間接介助看護師)の役割についてご紹介する予定です。
 あまり知られていませんが、実は手術室看護師としての醍醐味、真髄は「外回り業務」にあり! なんです。
 器械出しに比べて高度なスキルが求められる外回り業務とはいったい何なのか? 次回をご期待ください。