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「食べるということ」

【摂食嚥下障害看護領域】    愛知県立がんセンター病院    青山寿昭さん
青山寿昭さん 看護師16年目、摂食・嚥下障害看護認定看護師をしています。飲み食いが好きで、摂食・嚥下に興味を持ったのは8年ほど前でした。 平成18年に人の勧めで認定看護師になりました。勤務先は愛知県がんセンター中央病院で主にがん患者への嚥下障害に関わっています。
Vol.7  2010年3月 「食道癌術後の嚥下障害患者さん」
食道癌術後の嚥下障害は主に反回神経麻痺が原因であることが多いです。反回神経は迷走神経の分枝で左の方が長く、胸腔内で迷走神経から別れて大動脈弓を回って喉頭に向かいます。反回神経は主に喉頭の運動に関与し、上喉頭神経とリンクして喉頭感覚にも関わると言われています。反回神経麻痺による喉頭麻痺と嚥下障害には関係があるのでしょうか?実は喉頭麻痺が起こると声門閉鎖が不十分になって誤嚥しやすくなります。

反回神経麻痺の症状は気息性嗄声で声がかすれます。そして声帯が閉鎖しないために発声時間が短くなります。ですから声の質(嗄声の有無)と呼吸機能が関係しますが最長持続発声時間(大きく息を吸ってできるだけ長く「あ~」と発声させる)を測定する事で評価する事ができます。反回神経麻痺は声の出かたと麻痺の重症度はあまり関係がありません。麻痺したときの声帯の固定位置が重要です。固定位置は正中位・傍正中位・開大位に分類されます。正中位は比較的発声できる事が多いのですが、声門が開きにくいので呼吸困難による気管切開が必要になる場合があります。対して開大位は声門が開きすぎていて発声がしにくく誤嚥もしやすくなります。そして両者の間を傍正中位としています。

実際食道癌術後の患者さんがどの程度反回神経麻痺になるのかというと、自分が関わった感じでは半数程度に出現する印象があります。そう考えると食道癌術後の患者さんは高確率で嚥下障害になります。特に嗄声が強く、最長持続発声時間が5秒以下の場合はほぼ嚥下障害に悩みます。

以前関わった患者さんは食道の手術後、左反回神経麻痺で最長持続発声時間が5秒(肺機能に異常はない)、術後8日目の嚥下造影検査(VF)でも誤嚥を認めました。嗄声も気息性が強く、咳も上手にはできませんでした。リハビリとして行ったことはまず、痰の喀出ができるようにハフィングを行いました。そして声門内転訓練としてLifting exerciseと息こらえ嚥下の練習を行いました。術後16日目のVFの結果、息こらえ嚥下が上達したためゼリーでの直接訓練が開始されました。その後はソフト食、術後26日目には軟菜食を摂取して退院しました。反回神経麻痺の患者さんはほとんどの場合が咽頭通過スピードの速い水分が苦手で、この患者さんも軟菜食は摂取できますが、水分には増粘剤が必要でした。
直接訓練を行う場合の注意点はまず、誤嚥しにくいものを選択することです。この患者さんの場合は水分が苦手であることは分かっておりますので、ゼリーで開始しました。ゼリーは咀嚼すると凝集性がおちますので丸飲みすることをお勧めします(時々気を使ってゼリーを良く噛んで食べる方が見えます)。そして次の段階の食形態も水分が少ない物、もしくはとろみがついている物が良いでしょう。そして固形物を食べる時には意識が「飲み込む」から「食べるに」変わってしまいますので、嚥下の意識化が必要になります。飲むのが苦手な人が咀嚼も行う必要が出てきますので、誤嚥するリスクが増します。そこで固形物を提供するときは咀嚼と嚥下を分けて考えるように意識化することが重要です。この患者さんは最長持続発声時間が7秒程度であり、さほど大きな機能的改善には至りませんでした。経口摂取が進んだのは嚥下の意識化と息こらえ嚥下を獲得できたことが良かった理由だと思われます。このように息こらえ嚥下を行うことで経口摂取が進む場合がほとんどですが、改善しない場合もあります。声門固定位が開大位の場合は難しい事が多く、患側への頸部回旋や外科的治療が必要になることも少なくありません。反回神経は残存して麻痺しているのか切断されているのかは重要で、切断されている場合は声門が委縮して広がっていくのでフォローが必要です。


ソフト食

訓練用ゼリー
リハビリを行う事は重要ですが栄養状態も気にする必要があります。当センターでは食道癌の手術は食道再建を胃で管を作成して再建される事が主です。胃が小さくなり一回摂取量も減少しますので栄養状態も注意せねばなりません。経口摂取を開始しても摂取量を確認しながら経腸栄養を併用していく必要があります。

食道癌の術後は高確率で反回神経麻痺になりますが、訓練をする事で経口摂取できるようになります。どちらかと言えば食道再建を胃で行った場合、摂取量の減少による栄養障害が生じやすく長期化する事が多いため、栄養管理に重点を置く必要があるのかもしれませんね。入院患者さん全てに言えますが、入院期間が長くなると精神的にも不安定になりやすくなります。ですからできるだけ早く退院できるように関わっていきたいですね。