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「食べるということ」

【摂食嚥下障害看護領域】    愛知県立がんセンター病院    青山寿昭さん
青山寿昭さん 看護師16年目、摂食・嚥下障害看護認定看護師をしています。飲み食いが好きで、摂食・嚥下に興味を持ったのは8年ほど前でした。 平成18年に人の勧めで認定看護師になりました。勤務先は愛知県がんセンター中央病院で主にがん患者への嚥下障害に関わっています。
Vol.15  2011年3月 「上顎癌術後の嚥下障害」
上顎癌は上顎洞の粘膜にできる癌で、日本人は世界でも発症率が高いそうです。図1の黄色い部分が上顎骨で、手術療法では部分切除術や全摘出術が一般的で、眼球摘出が必要な場合もあります。上顎を失うと同時に歯牙を失うことにより咀嚼に問題を起こす程度で、嚥下障害というイメージはあまりない人も多いと思います。どの組織にも言えることですが、切除範囲により嚥下障害のリスクは変化します。切除範囲の狭い部分切除は嚥下障害を起こすことはほとんどなく、対して上顎全摘になると皮弁による再建が必要になったりしますので嚥下障害のリスクは高くなります。

例えば、右上顎全摘・腹直筋皮弁・頸部郭清・気管切開術で術式から考えてみます。創部(上気道)の浮腫のために気道閉塞が予測されますので、あらかじめ気管切開術が施行されます。気管切開口は上気道の浮腫の軽減、気道分泌物の喀出ができれば閉鎖されます。嚥下訓練は皮弁が生着してからになりますので、術後1週間は積極的な嚥下訓練ではなく、皮弁の観察を密に行い口腔ケアを中心に関わります。そして、皮弁・創が安定後、嚥下訓練を検討していきます。術式からは以下の通り、口唇閉鎖不全・咽頭への送り込み障害・口腔内残留・嚥下反射惹起遅延などが考えられます。
口唇閉鎖不全:手術による上口唇の麻痺
 麻痺の大幅な改善は見込めず、口唇閉鎖不全がある場合は食塊の送り込みも障害されるため、口唇全体の訓練を行うことで麻痺側の代償を行います。

咽頭への送り込み障害・口腔内残留:上顎の欠損と皮弁(器質的変化)図2
 硬口蓋は上顎骨の裏打ちがあり、嚥下運動で食塊を咽頭に送り込みを行う時に舌を強く押しつけられる場所です。そして、食塊の硬さなどを把握しているとも言われています。器質的変化や知覚の喪失があることで舌との密着が悪く、食塊を咽頭に上手く送り込めなかったり、口腔内に残留したりすることがあります。また、部分切除などで皮弁による再建がされていない場合は、鼻腔と口腔がつながってしまいますので、食物が鼻から出てくることもあります。

嚥下反射惹起遅延:口呼吸による口腔内乾燥
 皮弁を使用した場合、創部・皮弁の浮腫により鼻閉になります。術直後は気管切開により口呼吸にはなりませんので口腔内乾燥は比較的軽度で経過します。しかし、気管切開口の閉鎖以後は上気道を使用ますので、皮弁や鼻閉により口呼吸になります。口呼吸による口腔内乾燥で嚥下反射は鈍くなり、さらに、嚥下回数が減少することで嚥下関連筋群の機能低下が起きます。これに対して、口腔ケアや口腔内アイスマッサージによる口腔内保湿、寒冷圧刺激による嚥下訓練などが有効と考えます。

 当センターでは、上顎癌術後の患者さんには積極的な口腔ケアを促すのはもちろん、唾液の分泌を促したり、嚥下反射を惹起させたりすることを目的にレモンなどの味を付けたアイス綿棒を使用した口腔内のマッサージや寒冷圧刺激を行っています。口腔内の運動機能も大切ですが、欠損と皮弁により口腔内粘膜の減少や呼吸経路の変化などにより口腔内乾燥が起こりますので、このような口腔ケアを中心とした口腔機能改善や嚥下反射の惹起改善が有効だと感じます。