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「食べるということ」

【摂食嚥下障害看護領域】    愛知県立がんセンター病院    青山寿昭さん
青山寿昭さん 看護師16年目、摂食・嚥下障害看護認定看護師をしています。飲み食いが好きで、摂食・嚥下に興味を持ったのは8年ほど前でした。 平成18年に人の勧めで認定看護師になりました。勤務先は愛知県がんセンター中央病院で主にがん患者への嚥下障害に関わっています。
Vol.9  2010年6月 「喉頭癌術後の嚥下障害」
喉頭の一番の仕事でピンとくるのはやはり発声ではないでしょうか?嚥下運動での役割は喉頭閉鎖(声帯・仮声帯・喉頭蓋閉鎖)による下気道の防御です。喉頭閉鎖することで食塊の気管への侵入を防ぎます。そして舌骨上筋群の働きにより嚥下時に前上方へ挙上することで食道への入り口が広がります。簡単に言うと食事と呼吸をきりかえて人が誤嚥しないようにしています。その他、息をこらえることもしており、ふんばったり重い物を持ったりするときに息を止めるのは喉頭が働いているのです。

喉頭は喉頭蓋軟骨・甲状軟骨・舌骨・輪状軟骨といった軟骨で形成され、迷走神経の分枝である上喉頭神経と反回神経により支配されます。喉頭の診察は喉頭ファイバーで行われますが、声帯の動きは声の質で多少判断することが可能です。例えば気息性嗄声があれば喉頭麻痺などが考えられ、湿性嗄声の場合は喉頭・咽頭での唾液や食塊の残留が予想されます。声の検査で代表的なのは前述の食道癌のところでも出ましたが、最長持続発声時間測定があります。その他、1%クエン酸液をネブライザー噴霧による吸入で不顕性誤嚥の可能性を示唆する咳テストなどもあります。
僕は今の病棟で働くまでは喉頭癌というとイメージするのは喉頭全摘術で、喉頭癌になると喉頭は摘出しなければならなくなると思っていました。しかし、実際は腫瘍の部位や大きさにより喉頭部分切除や喉頭亜全摘などの術式もあります。部分切除の場合は切除部位や範囲により嚥下障害のリスクは変わりますが、亜全摘の場合はほぼ全症例で嚥下障害を認めるのではないでしょうか。では、喉頭全摘した場合はと考えると完全に気道と食道が分離しますので誤嚥という心配は一切なくなります。しかし、その代償はと考えるととても大きなものになります。単に声が出ないだけではなく、呼吸を口と鼻で行いませんので匂いを嗅ぐこと・麺類をすする・鼻をかんだりすすったり・肩まで湯船につかれなかったりなどと、たくさんの不都合がでてきます。一方喉頭を残す術式の場合、嚥下障害になり非常に苦労をしますが、嚥下障害を乗り越えることができれば発声することもでき、食事とコミュニケーションの両方を保持することができます。そう考えると腫瘍の部位や大きさによりますが、機能が残る喉頭温存というのはとても魅力を感じますよね。

当センターで行われる喉頭亜全摘はCHEPと呼ばれる方法が多く、甲状軟骨を切除するものです。甲状軟骨の中には声帯が含まれますので術前のような声には戻りませんが、日常会話は出来る程度にはなります。この術式も例にもれず重度の嚥下障害と闘わねばなりません。術後の披裂の浮腫による器質的な問題もありますが、一般的には喉頭閉鎖と喉頭挙上に障害がでるために声門内転訓練と喉頭挙上訓練を行いながら息こらえ嚥下を獲得していきます。直接訓練はゼリーから開始し、ソフト食などの水気が少なく咀嚼を必要としない食事を提供していきます。個人差が大きく、術後の経口摂取まで1ヶ月~2ヵ月程度かかる事も少なくありません。そして、水やお茶などのサラサラの物は飲めるようになるには少し時間がかかることが多いです。僕の施設では喉頭亜全摘(CHEP)で最長術後3カ月経口摂取できなかった患者さんがいますが、全員が経口摂取可能になり退院しています。

リハビリに時間がかかるとその間の気持ちのコントロールが重要です。自分で代償法を獲得する場合もありますが、焦りや恐怖で良くない癖がつく場合もあります。イライラや、やる気の減退などに注意して関わっていくことも重要です。