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「食べるということ」

【摂食嚥下障害看護領域】    愛知県立がんセンター病院    青山寿昭さん
青山寿昭さん 看護師16年目、摂食・嚥下障害看護認定看護師をしています。飲み食いが好きで、摂食・嚥下に興味を持ったのは8年ほど前でした。 平成18年に人の勧めで認定看護師になりました。勤務先は愛知県がんセンター中央病院で主にがん患者への嚥下障害に関わっています。
Vol.17  2011年5月 「とろみとゼリー」
よく嚥下障害だと水分にとろみをつけると聞きます。適当にとろみをつけられ、こてこてになっているのをよく見かけます。このような増粘剤の使用方法の間違いや分量の不統一による失敗は当センターでもよく目にします。最近は増粘剤にも様々な種類があり、先に増粘剤を入れるタイプや増粘剤を入れてからかき混ぜるタイプなども発売しているようですが、一般的に正しいとされてる方法は増粘剤を入れながらかき混ぜるという方法です。そうすることでダマなりにくくなります。分量は統一しておく必要があり、増粘剤を使用すればそれで良いわけではなく、適度な粘度である必要があります。ある施設でスタッフ全員にポタージュ状のとろみ茶を作成するように指示したところ、粘度の薄い物からジャムのようなものまで様々な物性になったという報告を聞きました。ポタージュ状が人それぞれ違う認識である事と、少しずつ足していったら入れすぎたなど、原因はいろいろあります。実際に病院でも抽象的な指示を出すと当日受け持ちの看護師の主観で分量を調節されることが多々あります。こうしたことから増粘剤は水分に対しての濃度を決め、例えば1%のとろみであれば200mlに2gなど、入れる量を具体化させておく必要があります。そして、増粘剤は入れてからの時間やとろみをつけようとする物や温度によりとろみが変化する傾向にあり、それらも計算する必要があります。

では、何故増粘剤でとろみをつけるのでしょうか。なんでもかんでもとろみと言うわけではなく、理由は咽頭の通過スピードの調節と食塊のまとまりです。とろみをつけることで食塊がばらばらになりにくくなり、食塊が一塊となったまま食道に入りやすくなります。そしてとろみをつけることで咽頭通過スピードが遅くなり、嚥下機能が低下した患者さんには飲み込みやすくなります。しかし、増粘剤を入れすぎてとろみがつきすぎると付着性が増し、ベトベトして咽頭に残留しやすくなります。咽頭残留は嚥下の後に気管に入る嚥下後誤嚥を招くため注意が必要です。

増粘剤は様々なものがあり、大きくでんぷん系・グアーガム系・キサンタンガム系に分けられます。でんぷん系は添加量が多く必要であり、ムース状など型抜きできるような食品に向くようです。グアーガム系は添加量が少なくてもとろみがつきやすく、牛乳にもしっかりととろみがつきます。汁物やピューレ状食品に添加して型抜きする場合に向くようです。キサンタンガム系は透明性に優れ、無臭で付着性が低い。牛乳や濃厚流動食にとろみがつきにくく、低濃度のとろみ付けに適しています。増粘剤によっては味の変化、とろみの付き方(時間・量)、付着性などに違いがありますのでよく検討してから使用することをお勧めします。

嚥下障害患者さんの開始食や訓練食によくゼリーが選択されますが、ゼリーはどうでしょうか。ゼリーの利点は凝集性に優れているため食塊として一塊となっている、付着性が低く残留しにくい、変形性に優れているため飲みやすいなどの理由があり、何でも良いわけではありません。ゼリーの中にも様々な種類があり、中には嚥下障害患者さんには注意が必要な物もあります。例えば、寒天を多く含む物(物性が固いものが多い)、ゼラチンが多い物(体温で溶解するために液体が多くなる)、果肉を含んだもの(咀嚼を要する)などは注意が必要です。

なに気に「とろみ」を付けていた人もたくさんいると思いますが、付け過ぎると味が悪くなったり、かえって飲みにくくなったりする場合もあります。同様にゼリーも飲みにくい物も存在するので、各施設でどのような商品を使用しているか理解しながら使用していく必要があると思います。