carenet



«前の記事へ        

「高齢者の精神障害」

【精神障害領域】    大阪勉強会サークル 精神看護 臨床心理を学ぶ会 代表 石井穂さん
石井穂さん 大阪勉強会サークル 精神看護 臨床心理を学ぶ会
Vol.5  2011年6月 震災時の心のケア 対人関係の重要性/「東日本大震災。福島ボランティアに参加した体験より」
「人間は自然や社会の前では無力だ。こうしたすべてのために、人間の統一のない、孤立した生活は耐えがたい牢獄と化す。」(エーリッヒ・フロム)
人は文明の中に生きています。文明は自然をある程度コントロールできる技術を手に入れているため、時に我々の生活は自然界から切り離された錯覚を覚えます。しかし、文明もまた、自然の中に形成されているものであり、自然災害に対しては無力であるのを痛感させられる次第です。
平成23年3月11日、過去に例をみないほどの大きな自然災害…東日本大震災がおこりました。想像を絶する喪失体験、孤立と孤独そして恐怖。自己に対する無力感・無能感・罪悪感など。心に与える影響ははかり知れません。現在もなお…人々の心に大きな傷をのこし、生活そのものに影響を与えているのはいうまでもありません。
今回、私は福島県を中心にボランティアに参加させて頂きました。看護師として非難所で活動したり、瓦礫撤去や流出物の洗浄…その場で求められることを中心として活動を展開いたしました。
様々な活動をする中で、現地の方々とも触れ合いました。ボランティアを通じて感じたのは心のケアというのは病院のような医療現場が必要というわけではなく、人と人が触れ合うことでなされるものだと痛感いたしました。現地の方々と共に泥にまみれながら瓦礫撤去をしたり、津波で流された流出物の洗浄をしたり、非難所で介護が必要な方々の食事や排泄などの介助をしながら…現地の方々とともに時間を共有する。その中で生じる対人関係がお互いのを深め、信頼しあい本音で対話できるようになる…ということでした。


写真は撮影時に公開の承諾を頂いたものです。
(福島県田村市春山小学校避難所 介護室部屋での活動時に撮った写真)
当たり前の話ですが、心に残った傷が深ければ深いほど…つらい話題に対しては「言葉」として表現したり人に話すことはできません。
今回、私は同じ地域へ数度にわたりボランティアに参加いたしました。2回目からは沢山の顔見知りが出来ました。その中で地元の方々と作業をおこなったり、空間を共有することで、お互いの信頼関係が芽生えます。信頼関係を築くことでができた後に、本音の話が可能となり、心の内を相手に話すことが出来る…。
そのお互いの関係性は「何かしてあげよう。」とか恩着せがましい一方通行や「被災地に来て現地の人の話を聴いて勉強になる。」などの興味本位的な関係性ではなく、お互いがお互いを尊重しあう温かい真の人間同士のつながりが心のケアに大きな意味を持ちます。
心をケアするということは単に専門家として接するということではないということがボランティア体験を通じて身にしみて理解できた気がします。 実は6月末、大阪府の心のケアのチームの一員として被災地へ赴くことが決まっています。今回のボランティアの体験をベースに、専門チームとして体験した心のケアについても報告できるかと思います。
次回は医療チームからの視点で心のケアのご報告をしたいと思います。
«前の記事へ