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「高齢者の精神障害」

【精神障害領域】    大阪勉強会サークル 精神看護 臨床心理を学ぶ会 代表 石井穂さん
石井穂さん 大阪勉強会サークル 精神看護 臨床心理を学ぶ会
Vol.4  2010年10月 高齢者の精神障害/老年期における行動化 ~失敗体験から学ぶこと~
私が思うのに、この世で一番大きな苦しみは一人ぼっちで、誰からも必要とされず、愛されていない人々の苦しみです。また、温かい真の人間同士のつながりとはどういうものかもわすれてしまい、家族や友人を持たないが故に愛されることの意味さえ忘れてしまった人の苦しみであって、これはこの世で最大の苦しみと言えるでしょう。(「愛のことば」よりマザー・テレサ)

マザー・テレサの「愛のことば」からの抜粋です。私の臨床体験からも精神障害者の心的苦悩そのものを表現され、精神疾患 の「原因そのもの」といっても過言ではありません。これらの感覚はヒトにとって「この世で最大の苦しみ」なのです。
 私が精神医療者となって経験が浅い頃、私は大きな失敗体験をいたしました。80代の女性で納得しないまま家族に施設に入所させられ憤慨。入所先の施設で自殺を仄めかす行動があり施設対応困難として精神科病院へ転院してきました。入院後「誰も私の気持ちなんてわからない!」と力強く訴え、自分の手で自分の首を絞めたり、医療者に罵声を投げかける行動が目立ちました。入院当日、私はその患者さんに関わりました。怒りの感情を緩和するために話を聴き、同時に自分を痛めつける行動を修正するよう対話しました。話を聴いていると、精神科に入院したことに対し「キチガイ扱いして!」と家族の不平不満と医療者に罵声がありました。また、自虐的な反応の修正に対する対話においても「私の気持ちが分かっていない!」と訴え壁に頭を打ち付けるような行動が認められました。結局、その日は怒りの感情がある程度沈静化しないと対話が成立しないと判断し面接を中断。翌日、出勤したところトイレットペーパーを喉に詰め他界した事を聴かされました。
こういった体験は臨床家にとって、とても辛い体験です。しかし、そういった体験も次に活かすため、時が経過しても…何度も振り返なければなりません。彼女は施設に納得のいかないまま入所させられたという体験が、「一人ぼっちで、誰からも必要とれない」というマザー・テレサのいう「この世で最大の苦しみ」を体験していました。
心的苦悩が行動へと変換されるとき、必ず意味があります。怒りの反応は現状を否定すると同時に人間不信に陥りながらも、ヒトを再び「温かい真の人間同士のつながり」が再度形成できるか…という周囲を試す行動でもあったでしょう。彼女の苦悩にもっと焦点を当て傾聴を深めていれば最悪の事態が回避できていたのではないかと想います。しかし、私は苦悩に対し十分な傾聴が出来ておらず、感情が収まりきらないうちに、自分を痛めつける行動に対して「修正を試みるような対話」を行い、「一人ぼっちで、誰からも必要とれない」感覚を増強させ、最悪な結果になってしまった体験でした。
臨床体験は成功ばかりではありません。医療者にとって辛い体験も付きまといます。そういった体験も乗り越え、ヒトと臨床体験を大切にする心を忘れずに…温かい真の人間同士のつながりを形成できる医療者になれるよう…日々成長していきたいものです。
サリバン先生一言メモ
サリバン先生の一言メモ