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<学会・イベント訪問記>

セントケアグループ 第2回公開研修
訪問看護師のための「フィジカルアセスメントの真髄」
訪問日 2009年2月15日
【はじめに】
「真髄」という言葉を辞書で調べてみると「そのものの本質、その道の奥義」と出てきた。フィジカルアセスメントとは、患者さんの身体情報を読みとり、今何が起きているかを考えることだが、一歩間違えればフィジカルイグザミネーション(身体検査)のみになってしまう。 訪問看護において、患者さんの身体情報をいかに読みとり、考えるにどのような知識が必要なのであろうか? 医師であり、看護師である山内教授の観察眼をご教授いただいた。
【訪問看護師のためのフィジカルアセスメントの真髄】

名古屋大学医学部 基礎看護学講座
山内 豊明教授(医学博士、看護学博士)

新潟大学医学部を卒業後、内科/神経内科医として臨床経験を積んだのち、アメリカの看護大学で看護学博士取得、帰国後、日本の看護師/保健師免許取得。医師と看護師の視点を持っているというのは極めて貴重な存在であり、今の医療における潤滑油の様な存在であると思う。まさしく真髄をついた講義が人気。
訪問看護師におけるフィジカルアセスメントの必要性として、患者さんは急性期を過ぎると病院を退院するが、訪問看護師を必要としている以上、五体満足ではないわけで、病院並みの生活レベルを維持しなくてはならない。そうすると、病院と家庭とで患者さんの状態を把握するわけだが、その場合、同じ物差しで測らなければならない。その物差しが、「フィジカルアセスメント」というわけだ。

その物差しを同じにするには、「観察した情報の言語化」が必要になる。最低でも「生きる死ぬ」に関わる情報は正確にキャッチし、さらに、その人らしさを守れるスキルが求められる。

「生きる死ぬ」に関しては、呼吸と循環のアセスメントだが、全部見るのではなく、「だからなんなんだ」という情報を取捨選択し、「みなくてもいいもの」をはっきり分ける。そして、必要な情報を正確にキャッチし、報告できることが必要となる。

その判断力が求められるわけだが、きちんと報告できることがプロとしてのアイデンティティであり、記録や報告はすべて判断に基づいているため、言葉の定義の理解や共通化は極めて重要であり、このことが真髄である。
パワーポイントの資料もわかりやすくまとめられていたが、山内先生の講義には身振り手振りが多いのも特徴であると感じる。実際の患者さんがいない状況でいかに参加者に分かっていただくか、その熱意が伝わる。参加された訪問看護師の皆さんも、うなづきながら聞いていた。
ヘルスケア事業部 訪問看護スーパーバーザー
看護師  岩城 馨子氏

病院の数が多いというのが大きな日本の特徴であり、病室で患者さんが亡くなるというのが当たり前になってきている。日本の訪問看護の問題や時代の変遷とともにどのように変わってきたのか、保険点数や諸外国と比較しながら現在の訪問看護が抱える問題点をご紹介いただいた。たしかに、こういったことを教えてくれる人はあまりいないので、こういった機会に訪問看護の概略について教えていただけるのはありがたい。
【ランチョンセミナー】
「訪問看護の可能性」

現在、家庭で死ぬということは少なくなり、「死」を理解することが難しくなってきているといわれる。そのことで、人の最後が希薄になっているとすればこんな悲しいことはない。そのような現在社会において訪問看護が発達すれば家庭で人生の最後を迎える人も増えるだろう。訪問看護師として介入することで、慢性的な足の痛みを持つ方の痛みをいやすことができた。そしたら、心の痛みも和らぎ、趣味の油絵をまた始めたり、訪問看護師の働く姿を見て、家族に勇気を持たせ、家庭で看取る気持ちがわいたという事例報告もあった。訪問看護が解決できる問題は、少なくなく、大きな可能性を秘めている。
【ランチョンセミナー】
「これが訪問看護というお仕事」

セントケア神奈川株式会社  神田 玲子氏

病院に15年所属し、看護をしてきた神田さんにとって訪問看護は未知の領域であったという。看護師として最も深みのある看護を行えるのは、訪問看護であり、今は充実している毎日を送っていると笑顔で事例を交えて普段の業務内容を紹介していただいた。
【実際の訪問看護の様子を動画で紹介】

やっている内容に目新しさは感じない。しかし、そこは家庭であるということを考えると驚く。普段病院で行っていることと全く同じ様子が家庭で展開されているのである。まさに、山内先生の理想の一つがここにある。患者さんや家族の方にとっては日常なのでしょうが、印象に残ったのは家族の感謝の言葉です。人は、いくら経済的に成功しても感謝されないと心の充足感は薄いと聞きます。訪問看護が楽しいという理由の一つが「感謝」かも知れませんね。だれも、病院には行きたいとは思わないと思いますが、信頼のおける医療スタッフがやってきてくれたらうれしいですよね。「笑顔で看護」いいですね~。
セントケアホールディング株式会社
ヘルスケア事業部長  岡本 茂雄氏

セントケアの今後の方針として「訪問看護」を学術的に確立したいという話があった。具体的には、
①訪問看護アセスメントのプロトコール
②訪問看護のやりがいや面白さ、質を高められる本の制作
③訪問看護と中心としたスキルアップ研修の充実
④訪問看護管理者研修

会社としては、金銭的な評価ではなく、どれだけ動いたか? それだけ困難事例に取り込んだかを評価していける会社にしたいとのことだった。スーパーバイザーの岩城さんも「部長が良き理解者であるので仕事が楽しい」と。訪問看護の革命が始まりそうな予感がしますね。
【実践できるフィジカルアセスメント】

午後の部は、実際の聴診の音とその意義についての説明や医療用語が独り歩きして分かりにくくなっていることを例題を交えながら指摘されていた。「AIR入り良好って何ですか?」と言われれば、何となく肺に空気が入っている気にはなりますが、確かに何を指しているのか、この言葉だけでの説明は不十分ですし、「午前3時にベッドから転落」と「午前3時の訪室時にベッドではなく床に寝ていた」では、まるで意味が違うことなどを指摘、笑いを交えながら講義を進めてくれた。 事実と事実認識が違ってしまうと、報告が変わってしまう。山内先生の話を聞き、普段何気なく使っている言葉も注意しないと、誤った事実だけが伝わってしまうと痛感しました。講義終了後も、質問が相次ぎ、参加者にとって有意義な一日となったようです。
【フィジカルアセスメントガイドブック】
山内豊明 著  医学書院


基本的なフィジカルアセスメントに必要な情報はすべて載っているうえ、「WHY? なぜ○○なの?」というコラムが非常に多く書かれています。日常の看護シーンで「なんだかよくわからないけどこうしてる」ということは少なくないと思いますが、そういった疑問をかなり解決してくれると思います。2,415円と値段も手ごろです。フィジカルアセスメントを単なる身体検査にしないために、看護師であるならぜひお手元に置いておいていただきたい1冊です。
【実習風景】


【シミュレータ紹介】 協力:京都科学
このシミュレータは、すごいですね。肺や心臓の音だけではなく腸蠕動音や瞳孔も光を当てると収縮するすぐれものです。いくつかの病態を設定することができ、疾患を体験することができます。我々看護師は、患者さんを診断することができません。しかし異常を早期発見し医師に報告することで結果的にその患者さんの早期診断に寄与することは可能であり、それが大きな看護師の役割です。確かに、フィジカルアセスメントは簡単ではありませんが、こういったシステムを利用し、スキルを伸ばしていきたいですね。

セントケアホールディング株式会社とは?
訪問看護の事業所の数は、全国36か所、なんと670名もの看護師が在籍しておられ、うち200名が訪問看護に従事しているという。訪問看護や訪問入浴、デイサービス、有料老人ホームの運営など、高齢化社会を迎えた日本を支え、発展させようとしている。「福祉コミュニティの創造」「ケア産業の創造」「生きがいの創造」を大きな柱とし、まさに新しい時代を築こうとしている。取材を通して勢いを感じました。俄然注目していきたい会社ですね。
【写真】セミナー開催のあいさつをするセントケア神奈川株式会社
社長 白鳥 淳氏
「ステーションの利用者は当然、スタッフも相互に生きがいを感じられる会社であり続けたい」と。
【編集後記】
高齢化社会には、独居老人、増え続ける認知症、そして老老看護といった悲観的なイメージが付きまとう。
加齢に恐怖と不安を感じ、生きている人も決して少なくないであろう。そんな時、自分に何ができるかといえば、何もできないのである。個人は、とても小さな存在だ。しかし、「どうにか良くしたい」と本気になった会社がセントケアホールディング株式会社であろう。訪問看護を一から見直し、質を高める。その姿勢が垣間見えたのが今回のセミナーであった。離職する看護師の理由の一つに「やりがいを見いだせない」というものがある。生き生き仕事をする看護スタッフたちを見ていると「訪問看護もいいなぁ」と本気で思えた。くしくも開催された場所は、みなとみらいを見渡せるあるビルの一角。日本の未来もそう暗くはない。
あおやぎ