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「食べるということ」

【摂食嚥下障害看護領域】    愛知県立がんセンター病院    青山寿昭さん
青山寿昭さん 看護師16年目、摂食・嚥下障害看護認定看護師をしています。飲み食いが好きで、摂食・嚥下に興味を持ったのは8年ほど前でした。 平成18年に人の勧めで認定看護師になりました。勤務先は愛知県がんセンター中央病院で主にがん患者への嚥下障害に関わっています。
Vol.20  2011年10月 「栄養・嚥下外来の患者さん」
栄養・嚥下外来も1年が経過し、現在は認定看護師が2人になったので毎週行っています。
患者さんは頭頸部癌術後患者さんよりも他科の患者さんの方が多いような印象があります。
今回は先日まで栄養・嚥下外来に通っていた患者さんの紹介をします。

60歳代 女性 身長:142cm 体重:32.5kg
家族構成:本人・夫・兄の3人暮らし
病名:縦隔がん
既往歴:40歳代 子宮筋腫(治療なし)
病歴:縦隔がんと診断され、縦隔悪性腫瘍切除術を受けました。
術後、反回神経麻痺による嚥下障害があり、入院中から関わっていました。
入院中はソフト食を摂取していましたが摂取量が増さず、嚥下障害の改善に時間がかかると判断し、胃瘻を造設しました。
経腸栄養と嚥下訓練を行ないながら退院しました。
反回神経麻痺のために明らかな嗄声があり、MPTは3秒でした。
反回神経麻痺の嚥下障害は声門閉鎖不全が原因で、特に水分を摂取しにくくなります。
そのため、入院時から声門閉鎖訓練と息こらえ嚥下を行っており、自宅でも継続できていいました。
食事は胃瘻からの経腸栄養を中心にソフト食で訓練を行なっていました(ソフト食は通信販売で購入)。

夫の助けもあり、外来には毎回夫が付き添いました。
初回の外来では、自宅に帰ると気分の変化もあり、少し経口摂取量も増したようでした。
退院して活動量が増しても体重に変化がないため、栄養は不足していないと判断しました。
本人は消極的でしたが、経口摂取量をもう少し増やしていくよう説明をしました。

2度目の外来でも食事への不安が強く、食事をすると肩がこるなどの訴えがありました。
精神的な不安が強く、退院してからも自宅に引きこもりがちであったので、呼吸機能改善と気分転換を兼ねて少しでも外に出て動くように促しました。
経口摂取は通信販売のソフト食を摂取していたので、調理方法を簡単に説明して固形物の摂取も勧めました。

3度目の外来では調理方法を説明したこともあり、自分で調理して経口摂取する種類が増えていました。
食事に対する気持ちが少し変化したようで「食べてみたい」「夫の食事が気になる」などの言葉が聞かれました。
それでも活動範囲の拡大はみられず外出には消極的でした。

4度目の外来では経口摂取量も少しずつ増して体重は33.4kgになっていました。
軟菜程度の固形物を試しながら摂取するようになり、少し食欲が出てきたと話していました。
歩行訓練もするようになり、近所の公園で100m程度歩行するようになりました。

5度目の外来では食事への不安が少しずつ改善し、夫の食事を少し食べて練習するようになりました。
体重は33.6kgで少しずつ増加していました。
明らかな誤嚥もなく、少しずつ量を増すように説明しました。
食事への不安の軽減とともに活動量も増し、公園での歩行練習は400m程度できるようになりました。

6度目の外来では副食の摂取量が増加し、体重は34kg。
同時に活動範囲も増して娘と映画鑑賞にも出かけたと話されました。
外で食事はできなかったものの、がんになる前はよく映画鑑賞に行っていたそうで、笑顔が印象的でした。

7度目の外来では嗄声は劇的な改善も見られずにMPTは4秒でした。
旅行に行けたという報告があり、食事も旅館の食事を摂取できていました。
退院時には数口しか経口摂取ができなかったのですが、全量経口摂取できるようになり、後日、胃瘻は抜去されました。
栄養・嚥下外来を利用する患者は手術療法や放射線療法を受けた患者が多く、ほとんどの患者が治療による後遺症や予後への不安を抱いています。
摂食・嚥下障害を受け入れることができないままの退院や、その障害の回復見込みなどを知らされないままに退院する患者もいます。
それに、がんの再発や予後への不安が重なり、自宅で前向きなリハビリができない患者も多く存在します。
必要な情報提供を行い、精神的なサポートを行っていく場は必要だと感じました。
この事例の患者さんも機能的には代償法を獲得して固形物を摂取できる状況にありながらも、精神的な不安により積極的になれなかったのではないかと考えられます。
再発への不安であったかもしれないし、嚥下障害への不安であったのかもしれません。
しかし、本事例には夫の献身的な支えがあり、そして栄養・嚥下外来で継続的に関わることで不安の軽減となり、経口摂取も可能になったと思われます。